廃墟で肝試ししてたら警察が来た

怖い話


夏の終わり、俺たち四人は、地元で噂の廃墟へ肝試しに行くことに決めた。


そこは、かつて工場だったが、数十年前に相次ぐ事故で閉鎖され、今では地元の若者たちの肝試しスポットとして有名になっていた。




暗く沈んだ空気の中、錆びた鉄骨が絡まり壁は剥がれ窓は粉々になっている。

風が吹くたびに木の葉やガラス片がカラカラと乾いた音を立て、まるで何かが近くにいるような気さえする。

俺たちは懐中電灯の光だけを頼りに静かに足を踏み入れた。

奥に進むほどに空気は冷たく、息が白く見えるほどだった。

四人で手を繋ぐようにして進んだが、誰もが無言になりただ足音だけが響いていた。



「おい、なんか変な感じしないか?」



友達の一人が呟いた。



「まあ、廃墟なんだから当たり前だろ」




俺は笑いながら答えたが、内心はゾクゾクと背筋が凍るような感覚に包まれていた。



その時、遠くの方から足音が聞こえた。まっすぐで重い、確かに人間のものだった。

俺たちは即座に懐中電灯を消し、壁際に身を隠した。足音が近づいてくる。やがて、制服姿の男が現れた。


「こんな時間にここにいるとはな」


その声は冷たく、抑えきれない冷たさが混じっていた。

俺たちは肝試しだと説明し、特に警官に疑われることもなく男は「危険だからさっさと帰れ」とだけ言い残して歩き去った。

その瞬間、俺は何かが違うと感じた。

「なんだかあの警察官、目が黒くて…でも光もないような気がした」


友達が震えるような声で言った。

「気のせいだろ?」


俺はそう言ったが、あの男の目がどこか普通じゃなかったことは否定できなかった。



その後、俺たちはさらに奥へと進んだが、足音が再び聞こえてきた。今度はあの警察官のものではない。

急いで隠れることにした。

足音はどんどん近づいてきた。


「こっちだ」


男の声が響いた。まるで俺たちの動きを完全に把握しているかのようだった。

息を殺して固まるしかなかった。 その時、背後から冷たい風が吹き、どこかで濡れた紙のような音がした。


「逃げろ!!」


誰かが叫んだ。俺たちは一斉に走り出した。迷路のように入り組んだ廃墟で方向感覚を失いながらも必死で逃げた。


「捕まえろ!!」


その声はもはや警察官のものではなかった。
狂気と興奮が剥き出しになった歪んだ叫びが響き渡る。

俺たちは必死で走った。崩れかけた鉄骨の間をすり抜け、錆びた階段を駆け上がる。



あちこちに破れた天井や散らばるガラスの破片があったが、そんなことを気にしている余裕はなかった。


「待てよおぉぉぉ!」


足音は異常な速さで俺たちを追い詰めてきた。どこかの階段を登りきると俺たちは一つの部屋に飛び込んだ。カズもその後ろに続いた。


「はぁ…はぁ…っ、閉めろ!」


俺たちは力任せにドアを閉めてチェーンを掛けた。

部屋の中は事務所のような古びた空間だった。ホコリまみれのデスクや書類の山が放置され、時が止まっているような感じだ。

耳を澄ませる。

──ギッ…ギッ…ギッ…

足音が近づいてきた。一段、また一段。
ゆっくりだが確実に。


「ヒュウヒュウヒュウ…フッ、フッ、フフフ…」


笑い声が響いた。


「ユウタ……タイチ……カズキ……ダイゴ……」



どうして俺たちの名前を知っている?


震えながら言いかけたその時、ドアの外で足音がぴたっと止まった。

沈黙が支配する中、突然、ドアノブがガチャガチャと回り始めた。



「開けろ!!警察だ!!お前ら不法侵入だぞ!!」


その声はもはや警察官のものではなく完全に壊れていた。


そして、ドアが激しく揺れ、チェーンがバチンバチンと引っ張られる音が響いた。

逃げ道を塞がれた


「なんか、なんか塞げるもの…!」


俺は必死にデスクを動かし、書棚を倒してドアの前に立てかけた。

その間にもドアはドンドンドンと衝撃を受け続ける。

スマホを取り出し、通報しようとした。


「電波……入った……!」
「マジか!?」
「110、繋がった!!早く、早く──!」



だが、顔が青ざめた。

「……出ない」

画面には「発信中」と表示されたまま、どこにも繋がっていなかった。

その時、ドアの衝撃がぴたりと止まった。

沈黙が支配し、数秒が経った後、何か細いものがドアの隙間から差し込まれてきた。

金属の棒。いや、ナイフだ。
刃が慎重に差し込まれていた。

カズが後退りし、俺はその瞬間、ナイフを踏みつけてしまった。
その時、天井から何かが落ちてきた。


──男だった。

男は笑っていた。
完全に壊れた目をして、口元は血まみれで歯の隙間に赤黒い何かが挟まっていた。


「みーつけた」


カズが手に持ったハンマーで男の頭を振り下ろした瞬間、男は仰け反った。


その隙に、俺たちはドアに積んだものを蹴り飛ばし、廊下へ飛び出した。


「階段じゃなくて、裏から出ろ!!」


裏の非常階段は崩れかけていたが、そんなことを言っていられなかった。

俺たちは手すりを掴みながら駆け降り、草むらへ転げ落ちた。

そのまま無我夢中で道路を走り続けた。



途中でようやく本物のパトカーとすれ違った。

その時、俺たちはようやく命拾いしたことを実感した。



後に知ったことだが、あの“警察官”を名乗る男は連続行方不明事件に関わる殺人犯だった。

廃墟を縄張りにして、若者たちを“取り締まる”ふりをして襲っていたという。

警察はなぜ彼が警察の制服を持っていたのかについては明言していない。

けれど一つだけはっきりしていることがある。

あのまま数分でも遅れていたら俺たちは間違いなく次の犠牲者になっていた。

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