中学2年の夏。
長野県の山奥で行われた林間学校。
自然体験や登山、キャンプファイヤ──楽しみだったはずの数日間で一生忘れられない体験をした。
同じ部屋になったのは、リョウ、カズマ、ユウト、ミナト、そして俺。
消灯後、カズマが言った。
「寝る前にさ、怖い話しようぜ」
部屋の電気を消してスマホのライトを灯し、寝袋にくるまりながらひとりずつ話し始める。
ばあちゃんの昔話、近所の廃墟の噂、去年の先輩の怪談……。
外では風が唸り、カーテンがかすかに揺れていた。
ふいにリョウが低い声で言った。
「なあ……部屋の隅に、誰か立ってないか?」
全員でそちらを見る。
ロッカーとカーテンの間、薄暗い空間に人影のような“何か”が見えた気がした。
「やめろって!」
「怖い話してるからそう見えるだけだろ!」
ミナトがライトを向ける。
……そこには誰もいなかった。
俺たちは無理やり笑い飛ばして眠りについた。
真夜中。
トイレに行こうとした俺がドアを開けた瞬間、窓がガラガラッと音を立てて開いた。
「な、なんだよこれ!」
窓際のユウトが叫ぶ。
誰も触っていないのに夜風が吹き込む。
外は真っ暗な林だけ。
その時、カーテンの隙間から“白い手”がスッと引っ込んだ。
誰かが悲鳴をあげ、俺たちは慌てて電気をつけた。
朝まで明かりを消すことはなかった。
翌朝からユウトの様子が変わった。
顔色が悪く、ほとんど口をきかない。
「……昨日の夜、誰か俺の顔に手を置いただろ?」
俺たちは否定したが、ユウトは小さくつぶやいた。
「冷たかった。氷みたいだった……」
帰る日の朝、記念写真を撮った。
全員が笑顔でピースしている。
だが帰りのバスでミナトが青ざめた。
「これ……後ろのカーテン、誰?」
写真にはカーテンの隙間から白い顔の女が覗いていた。
目だけが異様に大きく真っ黒だった。
俺たちは慌てて写真を消したが、撮ったときカーテンは閉まっていたはずだ。
林間学校から帰って数日後、ユウトは学校を休み始めた。
やがて担任から告げられた。
「ユウトくん、少し精神的に不安定で……療養中です。ずっと“誰かが後ろに立ってる”って言うんだよ」
先生は笑ってごまかしたが、俺たちは笑えなかった。
──最後の夜、ユウトがトイレから戻ったとき。
部屋の隅で“誰かと話していた”のを全員が見ていたからだ。
ユウトは確かに笑っていた。
「また明日ね」
誰もいない暗がりに向かって。



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