ある日のこと。
とあるペットショップで大事件が起こった。
普通のチワワの子犬たちの中に一匹だけ異様に大きな子が生まれたのだ。
他のチワワの倍以上のサイズ。
耳は大きく、目もぎょろっとしていてまるで小型犬の着ぐるみを着た中型犬のようだった。
店員たちは前例の無い出来事に言葉を失った。
「な、なんだこのサイズは…!? 特別な交配もしていないのに!」
「いや、これは間違いなく突然変異だ。名付けて“メガチワワ”だ!」
こうして“メガちゃん”という名前が付けられた。
メガちゃんは、とにかく横暴だった。
他の子犬の餌皿に平気で顔を突っ込み、気に入らないことがあると「ワン!」と一喝。
すると普通のチワワたちは一目散に逃げていく。
「こ、こいつ…性格までメガ級か…」と店員たちは驚くばかり。
しかし不思議なことに誰も本気で叱れなかった。
なぜなら横暴を働いた後には必ずしょんぼりして、しっぽを丸めて寄ってくるのだ。
「ごめんね…でも、僕だけ大きくて寂しいんだ…」
その表情を見たら叱る気など完全に失せる。
散歩に出かければすれ違う人々は二度見する。
「え!? チワワってこんなに大きいの?」
「いや、あれは絶対チワワじゃない!」
しかし飼い主が胸を張って言う。
「チワワです!」と。
人々は笑顔にし、道行く人は「えらいぞチワワ!」と声をかけてくれる。
近所の子どもたちにも大人気で“メガチワワ様”と呼ばれ、皆の遊び相手に。
本人は威張っているつもりでも、子どもたちから見れば大きなぬいぐるみだった。
庭でどっしり座り、他の犬たちを見下ろすメガちゃん。
まるで王様のような風格だ。
だが、近所の野良猫にちょっかいを出されると情けない声で「キャン!」と逃げる。
――見た目は迫力満点でも、実際はただの甘えん坊チワワなのだ。
そのギャップが家族も近所もみんなを癒す。
「突然変異」だとか「メガ」だとか大げさに言われても、本人にしてみればただひとつ
“僕はちょっと大きめのチワワです”
それだけのことだった。



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