世の中には、金の亡者ほど恐ろしいものはない。
話題になったネット小説の洒落怖「リゾートバイト」もその例外ではなかった。
ある映画プロデューサーたちはヒット作の波に飛びつき、何としても金に換えようと企んだ。
原作を細かく読むこともなく「幽霊?怪異?全部映像で売れる」と考え、即座に映画化計画を立てたのだ。
リゾートバイトの舞台である旅館の所在地はすでに特定されていて映画でも同じ旅館で実際に撮影をしようという話になった。
スタッフはカメラ、照明、俳優を引き連れ、休暇も忘れて準備を進めた。
撮影当日、旅館に到着した最初の数時間はスタッフたちはただの古びた建物だと思っていた。
廊下の軋む音も畳の色褪せもただの経年劣化。
しかし、スタッフがカメラをセットし始めたころ微妙な違和感が漂い始める。
廊下の奥から物音がした。
しかしカメラのモニターには何も映らない。
「…誰かいるのか?」
警備の男が確認に向かったまま、戻ってこなかった。
不思議に思った助監督が後を様子を見に行くと、そこには――
壁に押し付けられ、喉を切り裂かれた警備員の死体があった。
慌ててスタッフが集まると、暗がりから声がした。
「お前ら、ふざけるな」
見知らぬ人影が複数、廊下に立っていた。
手には鉄パイプや刃物。
彼らの目は狂気に濁り、しかし怒りの芯は冷たく研ぎ澄まされていた。
「“リゾートバイト”は遊びじゃねえんだ」
「俺たちが恐怖した話を、お前らは見世物にするのか」
逃げ惑うスタッフを容赦なく追い詰め、次々と血が流れた。
主演俳優が階段を駆け下りる途中で背中を刺され、監督は照明器具のコードで首を絞められた。
誰一人として外には出られなかった。
最後に残ったプロデューサーは、旅館の玄関口に引きずり出され、ファンを名乗る者たちに囲まれた。
「金のために怪談を汚した報いだ」
そう告げられると、彼の顔に重い石が振り下ろされた。
――翌朝。
旅館の外観は何事もなかったように静まり返っていた。
映画に関わる人間は誰一人として生きていなかった。
皮肉なことに、この大量殺人事件はネットで瞬く間に拡散され「リゾートバイト」の名は再び話題となった。
けれどそれは映画の宣伝ではなく――
血塗られた惨劇そのものが「実写化」された最悪の形での再現だった。



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