俺は一人暮らしをしている。そして家ではインコを飼っている。
飼っているインコの名前は「ピッピ」。
明るく人懐っこく、いつも「オハヨー」や「ピッピかわいい」と喋っていて癒しの存在だった。
ある日、仕事から帰ってくるとピッピがケージの中で妙な言葉を繰り返していた。
「開けて。ここ、開けて。開けて……ここ、開けて……」
最初はYouTubeでも見て覚えたのかと思ったが、ピッピは基本的にテレビのあるリビングではなく、静かな寝室で過ごしている。
そして涼はそんな言葉を教えた記憶がなかった。
「どこで覚えたんだよ……ピッピ、誰に教えてもらったの?」
するとピッピが答えた。
「アレクサ」
その瞬間、涼の背中に冷たい汗が流れた。
家にはAmazonのスマートスピーカー「Echo」があり、寝室にも連動させていた。
試しにアレクサに聞いてみた。
「アレクサ、ピッピに何か話しかけた?」
「すみません。履歴にはありません。」
「アレクサ、ピッピに”開けて”って教えた?」
「わかりません。」
それ以降、ピッピは毎日のように同じ言葉を繰り返すようになった。
「ここ、開けて……中、いるよ……開けて……まだ生きてるよ……」
ある夜、ふと目が覚めると、真っ暗な寝室の中でピッピが不自然な沈黙を守っていた。
いつもなら寝言のように何か喋っているのに――と思った瞬間。
ケージの中から人間のような声でこう聞こえた。
「ピッピ、やめてって言ったのに」
次の日、ピッピは死んでいた。
目を見開いたまま、硬直して。
涼は動揺しながらも火葬し、ケージを片付けようとした。
そのとき、スマホのAlexaアプリに通知が届いた。
「ピッピの音声命令を再登録しました。新しいプロフィール:居住者002。」
そしてスピーカーが自動的に起動して言った。
「また飼ってね。今度も“喋れるやつ”にして。」



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