「なあ聞いた? あいつ先生にガチで泣かされたんだって!」
「マジかよ!先生ぶん殴ってやるって豪語してたのにな!笑」
放課後の教室には俺と友達の二人だけが残っていた。
夕方のオレンジ色の光が斜めに差し込み机の上を真っ赤に染めている。
他のクラスメイトはもう帰ってしまい、静まり返った教室に俺たちの笑い声だけが響いていた。
「やめろって!笑いすぎて腹痛ぇ!」
「だって事実だろ?笑」
その時だった。
――コツ、コツ。
軽い足音のような音が教室の外から聞こえた。
笑い声が止まり、二人で顔を見合わせる。
「……なんか今聞こえたよな?」
「うん。誰か残ってんのかも。」
ドアを開けて廊下を覗くとそこはもう薄暗く夕陽は消えかけていた。
その奥で何かがゆっくりと動いている。
ゆら、ゆら。
人影のようなものがこちらに向かって歩いてくる。
「先生……かな?」
「いや、なんか変じゃね?」
近づくにつれ空気が冷たくなる。
見えた顔は青白く、唇から赤黒い液体が垂れ制服を染めていた。
「え、なに……やばい、やばくない!?」
「走れ!!!」
友達に腕を引かれ俺たちは全力で走り出した。
階段を駆け下り、職員室、保健室、放送室――どこにも誰もいない。
まるで学校全体が止まってしまったような静けさだった。
「ダメだ……もう外に出よう!!」
出口が見えた瞬間、友達が俺の腕をつかんだ。
「なあ……誰も追ってきてなくね?」
振り返るとそこにはただの放課後の校舎。
静かで冷たい空気だけが残っていた。
「……見間違いだったのかもな」
「そうだよな。にしてもお前ビビりすぎだって!笑」
笑い合いながら少しずつ安心が戻る。
けれど次の瞬間体が急に動かなくなった。
腕も、足も、首も――まるで金縛りにでもあったみたいに硬直する。
「おい……動けない……!」
「なんだよこれ……!」
視線だけを動かして横を見る。
そこにあの人影が――もうすぐそばに立っていた。
青白い顔。濁った目。口の端から垂れる黒い液体。
その口元がゆっくりと歪む。
にたり。
――笑った。



コメント