SNSで集まった七人の怪談好きが夏の夜に古民家で集まった。
七人がそれぞれ一話ずつ語り終えるまでろうそくの火を絶やさないというルール。
部屋は六畳の和室。
窓の障子は閉じられ、明かりはロウソク一本だけ。
カーテンの隙間から入る夜風が火を揺らすたびに畳の影が伸び縮みする。
みんなは初対面だった。
でも、みんな子どものころから怖い話が好きで話が弾んだ。
最初のうちは和やかなムードだった。
一人目の女性が語り始めた。
「学生のころ、夜中にトイレに行こうとしたら鏡に誰か映ってたんです――」
ありがちな話だけど雰囲気が出ていてとても良かった。
話が進むにつれ空気が少し重くなっていく。
二人目の男性は山の話をした。
遭難した友人のスマホに最後に残っていた“誰もいない山の声”。
そして三人目、四人目と話が続く。
火のゆらぎが強くなったり弱まったりして、
まるで何かが息をしているみたいだった。
五人目の語り手が話しているときだった。
パチン――
音もなく突然ロウソクの火が消えた。
一瞬、誰かが息を吹きかけたのかと思った。
でも誰も動いていない。
風もない。
闇が一気に広がった。
六畳の部屋が、まるで底なしの井戸の中みたいに黒く沈んだ。
「……誰か、ライター持ってる?」
俺がそう言うと、誰かがポケットを探る音がした。
――カチ、カチ、カチ。
何度もライターを擦る音。
でも火がつかない。
「つかない……」
男の震える声。
やけに息が近い。
距離感がわからないほど暗闇が濃い。
耳を澄ますと畳の上で“何か”が動く音がした。
ズ……ズ……
何かが布を引きずるような音。
「おい、誰か動いてる?」
「動いてないよ」
「俺も」
声が重なった。
全員がじっとしている。
でも確かにもうひとつ人じゃない音がある。
――ズ……ズ……
ゆっくりと誰かの後ろを這うように近づいてくる。
「誰だよ、ふざけんなって……!」
誰かが叫んだ瞬間、空気が震えた。
耳元で、女の声が囁いた。
「……つづけて。」
そしてパチ、と音がしてロウソクに再び火がついた。
全員、顔を引きつらせて黙っていた。
誰も動けない。
……一人、足りない。
「七人いたよな?」
六つの影しかなかった。
消えたのは、五人目の語り手だった。
彼が座っていた畳には水のような濡れ跡が残っていた。
誰もその後を口にしなかった。
ただロウソクの火が揺れ、壁に映る影が七つに見えた――。


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