子供のころの話で今でも忘れられない記憶がある。
家の前の曲がり角に古ぼけた外灯が一本だけぽつんと立っていた。
今のLEDのようなハッキリとした白ではなくてどこか湿度を含んだような昔ながらのオレンジ色の灯りだった。
子どもの頃、僕は無性にその灯りが怖くて仕方がなかった。 夜になって家の明かりが消えたあともその場所だけがぼんやりとオレンジ色に浮き上がり、まるでそこだけが世界から切り離されているように見えたからだ。
ある雨の夜のことだった。窓の外を眺めていると、オレンジ色の光の下に一つの影を見つけた。
「……女の人?」
こんな雨の真夜中に傘もささずに。
そしてその女の動きは異様だった。
誰かを待っている風でもなく、ただ外灯の支柱を中心にしてグルグルと機械的に歩き回り続けているのだ。
僕は恐怖で一度目を逸らした。
絶対に気づかれてはいけない…本能がそう告げていた。
けれど好奇心には勝てなかった。
僕は吸い寄せられるように家を出て雨の中外灯へと近づいた。
オレンジ色の円の中で女が歩き回っている。
僕は声を振り絞った。
「あ、あの……」
その瞬間、
女は「スーッ」と人間とは思えないような不自然な動きで外灯からそして僕から離れた。
そして少し離れた闇の中でピタッと止まり
こちらをじーっと見つめてきた。
何かすごく危ないような感じがして僕が家に戻ろうと背を向けた。
横目で振り返ると
女はまた「スーッ」と外灯の下へ戻り、再びグルグルと回り始めたのだ。
「……っ!」
ハッとして飛び起きた。
全身が嫌な汗でぐっしょりと濡れている。心臓の音がうるさかった。
「そっか……夢だったのか。変な夢だったな……笑」
僕はちょっとだけ安心して、乾いた喉を潤そうとベッドを抜け出した。
まだ夜だった。
そしてふと窓を見た。
外は雨が降っていた。


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