かつて、街に名の通った仏壇会社があった。
社長は山崎誠一。
生涯を仏壇づくりに捧げ、家族も社員も彼の信念に従ってきた。
しかし時代は変わった。
安価な海外製仏壇が出回り、若い世代の関心は薄れ注文は減っていった。
老舗の山崎社もかつての繁栄を失い、静かに衰退していった。
それでも社長は最後まで諦めなかった。
だがある冬の夜、無念のまま息を引き取った。
社長室の仏壇に向かって誰もいない事務所でただ一点を見つめたまま。
しかしその夜から社員たちの間で奇妙な噂が流れ始めた。
夜中に事務所の中で声がする
扉を閉めても奥の社長室から声が漏れてくる
誰もいないはずの会議室に低く湿った囁きが響く
社員たちが録音を試みると、テープにはこう残っていた。
「仏壇…仏壇…仏壇…」
最初は数回だった。
しかし日を追うごとに、声は増え、夜ごと長く執拗になっていく。
机や棚に置かれた仏壇からも声は漏れ、壁を揺らすように響く。
ある晩、若手社員が社長室に忍び込み扉を開けた。
そこには誰もいなかった。
だが机の上のノートパソコンが勝手に起動し、画面には文字が浮かび上がっていた。
「仏壇仏壇仏壇仏壇…」
社員は後ずさる。
次の瞬間、壁や天井から声が渦巻き社内全体を包む。
誰も眠れず、翌朝には全員が疲れ切っていた。
以来、山崎社では夜中に誰もいないはずの事務所から低く響く声がするという。
夜通し終わりなく、ただ一つの言葉だけを繰り返す声――
「仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇仏壇」
誰も近づけない事務所で社長の怨念は生き続けている。
そして今日もどこかで声は響いている――



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