新宿や上野のガード下で暮らしていたホームレスたちが、ある時期を境に次々と姿を消した。
「冬越しのために福祉施設へ入ったのだろう」
当初はそう思われていたが、常連の顔ぶれが一斉にいなくなったことから不思議に感じる人も少なくなかった。
やがて半年ほど経った頃、ある噂が広まった。
「みんな山に移り住んだらしい。廃村を自分たちの村に変えたんだ」
信じがたい話だったが、実際に有志の記者が山奥へと足を運びその真相を取材した。
ダム建設計画によって住民が去り、完全に無人となっていたはずの集落。
だがそこには確かに“暮らし”が戻っていた。
電気はないが、壊れた屋根を修理して住居に再利用
川の水を引き、畑を耕す
廃材やブルーシートを生活道具として活用
広場には手作りの掲示板があり、村のルールが記されていた。
「役職は順番で回す」
「物は分け合う」
「よそ者は皆で迎える」
彼らはこの場所を “自由の村” と呼んでいた。
都会のように追われることも、社会から排除されることもない。
ただ仲間と共に自分たちの手で暮らしていくことができるのだ。
しかしそこには独特の空気が…
取材した記者は村人たちの笑顔に迎えられながらもある違和感を抱いた。
「その目はどこか獣じみていた。彼らはもう都会に戻る気などないのだ」
夜になると村の広場で焚き火を囲み、十数人が輪になって歌を繰り返していた。
それは歌というより、呪文のように響いたという。
「ここに残れ、ここに残れ……」
翌朝、記者は急ぎ村を後にした。
だが出口でひとりの老人が笑いながらこう言ったそうだ。
「君もいずれ来るだろう。誰でも最後はここに来るんだ」と。



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