子供たちが集まる町内の公民館。
そこでは小さなミニ四駆大会が開かれていた。
数百円のパーツを工夫して取り付けたり、親に手伝ってもらいながら色を塗ったり。
和気あいあいとした空気の中、大人たちは見守り子供たちは夢中でマシンを磨いていた。
だが、その日。
会場の空気を一変させる人物が現れる。
扉を開けて現れたのは仕事帰りのようなスーツ姿の中年男性。
会場の空気を無視してずかずかと入り込みテーブルの上に大きなアルミケースを叩きつける。
ケースの中には見たこともない改造パーツ。
業務用モーター、特注のカーボンフレーム、ノートPCとケーブルまで持ち込みもはや「模型」ではなく「実験機」に近かった。
「レディー…ゴー!」
司会役の中学生がスタートを叫ぶと、子供たちのマシンは軽やかにコースを走り出す。
小さなボディが一生懸命にカーブを曲がり歓声が上がる。
だが――。
「フルパワーだッ!」
中年男性のミニ四駆が轟音とともに飛び出した。
加速は凄まじく、子供たちのマシンを次々と弾き飛ばしコースの壁を砕いて直進する。
会場は一瞬にして騒然となった。
親たちが止めに入り、子供たちは泣きながらマシンを拾う。
しかし男は狂気じみた目で叫び続けた。
「違う! 俺は悪くない! これは勝負なんだ! 今度こそ…俺は勝つんだ!」
制御不能となった黒いマシンは観客席に突っ込み、最後は火花を散らして停止した。
会場は呆然と静まり返り、やがて通報を受けた警察が駆けつける。
連行される中年男性はうわごとのように呟いていた。
「小学生の頃…勝てなかった。だから、今日こそは…」
だがその姿に勝利も栄光もなかった。
ただ「子供の遊びに大人げなく執着した」という痛ましい記憶だけが残された。



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