登山に行った。ずっと自分の後ろをついてくる人がいた。でも途中からいなくなった

怖い話


休暇を使って1人である山を登ることにした。

そこは人が少ない割に登山道も整備されていて登りやすい山と言われている。


当日、天気は良好で絶好の登山日だった。

登山客は予想通りほとんどいなかった。


ただ、自分の少し後からついてくる人が一人いた。

それに気づいたのは道が緩やかに続く尾根道に差しかかった頃だった。

足音は一定で、木の下草を踏む音がこちらのペースに合わせて遅れも早まりもする。

振り返ると、白い服装でザックを背負った一人の影が道の端を歩いているのが見えた。


しかし最初は気にも留めなかった。

山では誰かと同じペースになることはよくあるからだ。




だが、休憩を取ってまた歩きだしてもその足音が後ろから聞こえた。

足音は消えない。

岩場を登って視界が開けても、木立の向こうにぽつんと同じ背中が見える。






それからしばらく歩いた。

気になって後ろを見てみると


影は消えていた…


確かに後ろをずっと歩いてきていたはずなのに…

「鹿か狐かな」と俺は自分自身をごまかすように笑った。

でも本当は心のどこかがざわついてて妙に気になっていた。






しばらくすると天気の様子が変わった。

快晴の予定だったはずが曇り空が広がり始めたのだ。

そして次第に霧が広がり始め視界数m先すらも見えないほどにまで濃くなった。



「まずい…これは予想外だった…」



突然の事にどうするか俺はうろたえていた。



すると後ろのほうから

「ザッ ザッ ザッ」とまた足音が聞こえてきた。

俺はその瞬間ゾッとした。

このままではまずいと直感した。



急ぎ足で前へ進み始めた。

視界が悪すぎて進む方向が正しいのかすらも分からない。

しかし後ろから近づいてくる足音は止まない。

その足音から逃げるように男はひたすら進んだ。



息が荒くなり、額から汗が滴る。
霧が肺にまとわりつくようで呼吸も苦しい。

「早く……早く……!」

必死に足を動かした次の瞬間――



前へ踏み出した片足に地面の感覚が無くなった

咄嗟に踏みとどまった


なんと――


靴先の数センチ先が切り立った絶壁になっていたのだ。

足が震え、冷たい汗が全身を流れ落ちる。


……危うく谷底に消えるところだった。


心臓の鼓動が耳の奥で鳴り響く。
背後を振り返る勇気はどうしても出なかった。




ただ、濃霧の中で確かに聞こえた。

ザッ……ザッ……ザッ……

しかし足音はこちらにではなく遠のいていった。



あの足音は俺を絶壁へと導こうとしていたのだろうか

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