放課後、教室から妙なざわめきが聞こえた。
カタカタとコインの音、紙を叩く指先の音。
私は足を止め、そっと教室の扉を開けた。
数人の生徒が机を囲み、“こっくりさん”をやっていた。
「何をしているんだ…! ダメだこんなこと…!」
私は慌てて紙とコインを没収し、生徒たちを帰宅させた。
職員室に戻ると、没収した“こっくりさんの紙”を手に同僚の先生たちが集まった。
「懐かしいなぁ…」
一人がにやりと笑う。
「昔、私もやったことあるよ」
「じゃあ、やってみる?」
最初は冗談半分だった。しかし紙にコインを置き、指を触れると職員室に不思議な緊張感が漂い始めた。
「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」
最初のうちは誰も動きを感じなかった。
しかし徐々に紙のコインがかすかに揺れ始める。
誰も触っていないのに指を押されるような感覚があった。
先生たちはざわつき、息を呑む。
「え…今、動いた?」
「…あれ、違う、もっと…」
やがて職員室の蛍光灯がチカチカと瞬き、窓の外から風もないのにカーテンが揺れた。
冗談のつもりがいつの間にか見えない何かの気配がそこに漂っていた。
「やっぱり…やりすぎたかな…」
誰かが呟いた、その瞬間だった。
「ガタガタ…ガタッ!!!!ガタガタガタガタっ!!!!!!!!」
職員室の扉が激しく揺れる。
そしてゆっくりと扉が開くと――
そこには校長先生が立っていた。
「先生方。いい大人が何をしているんですか…」
校長は呆れた顔をしていたが私たちを見ているその表情にはニヤリと笑う隠しきれない笑みがあった。
でも私たちは笑えなかった。
なぜなら校長の後ろに血だらけの男が立ってじっとこちらを見ていたからだ。
校長は気づいていない。
どうやら“こっくりさん”がとんでもないものを呼び込んでしまったらしい。



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