私が通っている学校にはある噂があった。
2階の女子トイレの一番奥の個室を使うと呪われるという噂だ。
呪われるとある時から不気味な女が見えるようになるという。
女は何も言わずじっとこちらをずっと見ているそうだ。
そしてずっと付きまとわられ、最終的には事故や突然死を起こすという。
その瞬間、女はニヤリと笑うそうだ。
最初は誰も本気にはしていなかった。
「全然怖くない!くだらない」と笑って、肝試しみたいな感覚で確かめに行く子もいた。
でも、ある日から噂が“笑い話”ではなくなった。
二年の先輩の一人が突然学校に来なくなったのだ。
部活でも人気のあった子で、明るくて不登校になるようなタイプじゃなかった。
けれど彼女の友達の話では最後にこう言っていたらしい。
「例のトイレの個室に入ったあとにね……鏡の向こうに女の人がいたの」
その話を聞いた時、正直ゾッとした。
なぜなら私のクラスでも同じようなことを言う子が出始めたからだ。
授業中、窓の外を見て突然固まったり、
誰もいない廊下に向かって「今、そこにいた」とつぶやいたり。
日に日に顔色が悪くなって、
最後には保健室で震えていた。
「影が近づいてくるの」
その子が最後にそう言ったのを覚えている。
ある放課後
私ははどうしても気になってその“2階の女子トイレ”に行ってみた。
夕方の校舎はオレンジ色の光に包まれていたけれど、
トイレの中は妙に冷たく静かだった。
一番奥の個室の前に立つ。
ドアの隙間から誰もいないのが見える。
それでもなぜか“中に誰かいる”ような気がしてならなかった。
ドアノブに手をかけると金属がひやっとした。
ギィ、と音を立てて開けた。
――誰もいない。
安堵した瞬間、
上の方で“コン”と音がした。
反射的に見上げる。
蛍光灯の光の下、天井の通気口に髪の束が見えた。
ゆっくりと、
黒い髪が風もないのに揺れていた。
叫ぶこともできずに後ずさりした。
トイレの鏡に自分の顔と――その後ろに立つ“もう一人の影”が映った。
それはぼやけていたけれど
確かに女の形をしていた。
振り返ると誰もいない。
でも鏡の中では
女が口元をゆっくりと歪めていた。
――ニヤリ。
次の日、私は発熱で学校を休んだ。
高熱と悪寒が止まらず、
夢の中であの女が何度も現れて笑っていた。
そして三日後、
新聞に“通学中の女子高生、交通事故で死亡”という見出しが出た。
顔写真を見た瞬間、息が止まった。
事故に遭ったのは、あの“2階のトイレ”の噂を最初に言い出した子だった。
次は私…?
女が私を見て笑っている



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