教室の隅の男

怖い話

最初にそいつを見たのは高校二年の春だった。

席替えの後、教室の前のほうの隅っこで知らない男が立っていた。

制服でもない。白っぽいシャツに土で汚れたズボン。髪は濡れているみたいにベッタリとしていて顔は……いや、顔というより「目」しか印象に残っていない。

じっと俺を見ていた。

瞬きもせずに。



「なあ、あそこに立ってるやつ誰だろう?」



俺がそう聞くと、隣の席の友達は怪訝そうに眉をひそめた。



「は?誰もいねぇよ」



そう言って笑いながら前を向いた。
どうやら俺にしかそいつは見えないようだ。



それから毎日、そいつは同じ場所にいた。

授業中も昼休みもずっと。

俺がそっちを見るとそいつと目が合う。

黒板の陰から少しずつ前に出てきて気づくと昨日より半歩近くに立っている。


夜になると頭の中であの視線が離れない。

夢の中にも出てくる。暗い教室でずっと俺を見ている。
ただ立って見ている。
近づいてくる。



ある朝、教室に入るといつもの場所に“そいつ”はいなかった。

一気に肩の力が抜けて椅子にへたり込んだ。




でも….席についた瞬間に背中がぞわっとした。




窓ガラスに映った自分の後ろ――




そこに“そいつ”がいた。




俺のすぐ後ろに立って、俺の肩を覗き込むようにして笑っていた。

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