高校2年生の梶原美玲(かじわら・みれい)は、誰もが羨む「完璧な優等生」だった。
成績優秀、生活態度も模範的。
教師からの信頼も厚く同級生からの人望もあった。
だが、それは表の顔にすぎない。
本当の美玲は──
周囲を思い通りに操るために「いい子」を演じているだけ。
そして彼女の心の奥には、ある“嗜好”が潜んでいた。
それは他人が壊れていく姿を眺めること。
直接手を下すことはない。ただ、仕向ける。追い込む。
そして静かに観察するのが彼女にとっての娯楽だった。
ある日、美玲のクラスに転校生がやってきた。
名は佐伯千景(さえき ちかげ)。
地味で大人しく、存在感の薄い少女。
美玲はひと目で直感した。
「この子、壊れる素質がある」
最初は優しく声をかけた。
「一緒にお弁当食べない?」
「テスト対策のノート見せてあげるよ」
やがて千景は少しずつ笑顔を見せるようになる。
──その瞬間から美玲の“ゲーム”が始まった。
ゆっくりと追い込む「いじめ」ではない仕掛け
美玲はあからさまないじめはしない。
彼女が仕掛けるのはもっと陰湿で誰にも気づかれない方法だった。
クラスのグループLINEに、わざと千景の名前だけ入れ忘れる
給食のトレーを片づけるとき、彼女の分だけ置き去りにする
「〇〇が千景のこと怖いって言ってたよ」と耳打ちする
その直後に「そんなことないよ」と自分がフォローする
千景は混乱していった。
嫌われているのか、好かれているのか。誰が味方で誰が敵なのか。
心の拠りどころが揺らぎ、次第に不安定になっていく。
数ヶ月後、千景は精神的に追い詰められてついに不登校になった。
クラスメイトたちは噂する。
「やっぱりもともと病んでたんだよね」
美玲は心の中で微笑む。
──そして半年後。
千景の母親が学校に乗り込んできた。
「娘がこんな状態になったのは学校の責任です!」
担任は必死に否定する。
「いじめの事実はありません。クラスの生徒は皆、よくしていました」
しかし母親が続けた言葉に教師たちは息をのんだ。
「娘の日記に書いてあったんです。“ミレイちゃんだけは最後まで優しかった”って」
結果、美玲は「唯一の味方」という立場を手に入れた。
教師たちは口をそろえる。
「梶原さんは、本当にいい子だ」
ある日、千景の母が美玲に個別に声をかけてきた。
「あなたのおかげで、娘は最後まで救われていました。ありがとうね」
美玲はにこやかに微笑む。
「……よかったですね」
母親は涙ぐみながら去っていった。
その背中を見送りながら美玲は心の中でつぶやいた。
──「壊れていく様子、すごく綺麗だった」



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